動物と人の共生 - ヤマザキ学園大学 比較腫瘍学研究室

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19.11.02 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2019年11月

「伴侶動物医療の今後を考える」

One Healthは地球という惑星を存続させるための基本的思想であるが、その考え方は学問体系にまで多大の影響を与えている。One Healthは、人の健康、動物の健康、環境の健康は別々に論じるものではなく、三位一体となって初めて意味をなす、というものである。今までは独立していた医学、獣医学、工学、農学などの学問体系は、異分野ではあるが関連する学問分野と連携をとり、地球とその中で暮らしている人類の存続に貢献しようとしている。

One Health思想を医療に適応すると、One Medicineということになる。人の医療と動物の医療を別々に扱うのではなく、両者を一括りにすることによって、今まで解決できなかった人や動物の病気が克服されるようになるというものである。これらの考え方は、人と動物の共通する難治性疾患であるがんに限定すると、Comparative Oncology、すなわち比較腫瘍学となる。

比較腫瘍学の比較対象は、主に人と伴侶犬である。人の最良の友である犬は、人と同じ環境で生活し、同じようながんに罹患する。がんに対して、医学および獣医学両面から新しい治療法や予防法を開発し、人もしくは動物という垣根を取り払ってがんそのものを克服しようとするものである。

最近、Zoobiquity(汎動物学)という概念が提唱されている。医学、獣医学、進化生物学を統合することによって、医学の進歩は加速するというものである。人は進化の過程で、目には見えなくても、様々な動物の特徴や性質を潜在的に受け継いでいる。今、克服できていない人の難病であっても、動物の病気を見直したり、進化の過程を読み解くことにより、解決の糸口が見えてくるというものである。

Zoobiquityは、進化生物学を取り入れた点で、従来からいわれている比較医学よりも間口は広い。ここで強調したいのは、One Health, Comparative Oncology, Zoobiquityにしても、今までは医学と獣医学の人たちの間の温度差が大きかったことである。獣医学は医学に熱心にアプローチしても、医学は人を対象とする唯一無二のMedical Scienceであり、医学そのものを発展させることが人の健康と福祉につながるという考え方をする医学者が多かった。

しかし、ここに来て医学から獣医学にアプローチしてくる事例が増えてきている。それは、獣医学における伴侶動物医療の進歩によるのみならず、伴侶動物の今後の方向性を真に示唆しているものと考える。