動物と人の共生 - ヤマザキ学園大学 比較腫瘍学研究室

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カテゴリー : 動物医療現場のよもやま話

20.02.03 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2020年2月

「これからの伴侶動物医療」

今までの伴侶動物医療は、動物はものが言えないので飼い主の希望にそって診療を進めていくのが良いと教わってきた。動物は飼い主の所有物から命あるものになったとはいえ、依然として動物医療スタッフは飼い主優先の対応を取っているのが現状である。

最近、動物行動学の進歩によって、動物の“心”に寄り添った診療ということを耳にすることが多くなった。これから治療することを動物自身は望んでいるのかどうか、治療後動物は満足しているのかどうかなど、動物の身体的“精神的”状態をよく観察し、今後の対応を考えようというものである。

臨床医も動物行動学を学び、“動物の気持ち”と飼い主の希望を取り入れた診療を行うことが求められている。

20.01.07 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2020年1月

「がん治療の考え方」

“がんと戦うな”、“がんと診断されても、自覚症状がなければなにもしない方が良い”、“がんによる痛みなど、自覚症状のある場合にはその対症療法は実施した方が良いが、手術や抗がん剤治療はしない方が苦しまずに長生きできる”、“がん医療はビジネスである”、“がん治療は原始的であり、あてにならない”、
これらは広く知られた近藤誠理論であり、ある意味では的を得た考え方である(ここでいうがんとは、主に固形がんを意味する)。

この考え方が支持される根拠は、がんと診断され、医師の勧めるまま手術や抗がん剤治療などを続けても、苦しい闘病生活の後亡くなってしまう人たちが多いという現実があるからである。見方を変えると、近藤誠理論はがん患者のQ O Lを最優先にした考え方とも言える。

正に、がん看護の目標に当てはまる。ここでよく考えておかなければならないことは、がんと診断された患者全てに対して、積極的治療を放棄することが果たして良いかどうかである。根治できるがんと根治できないがんの見極めが、難しいけれども最も重要な判断となるのではないだろうか。

19.12.02 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2019年12月

「動物医療と治験」

わが国の動物医療における新規治療法や新規治療薬の開発は、欧米に比べて遅れている。新規治療薬の最終評価は、「治験」と呼ばれる臨床試験によってその有効性が判断される。わが国の動物医療における治験は、わずかに動物医薬品会社によるものが散見される程度であり、しかもわが国独自のアイデアで開発されたものはほとんどなく、海外からの導入薬の治験が多い。

治験は、会社以外には獣医師主導で行われることもあるが、わが国ではがんに特化した獣医がん臨床研究グループ(JVCOG)など、ごく限られたものしか存在しない。新規治療法・治療薬のアイデアの創出と治験コンソーシアムのシステム作りがわが国の獣医大学に求められている。

19.11.02 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2019年11月

「伴侶動物医療の今後を考える」

One Healthは地球という惑星を存続させるための基本的思想であるが、その考え方は学問体系にまで多大の影響を与えている。One Healthは、人の健康、動物の健康、環境の健康は別々に論じるものではなく、三位一体となって初めて意味をなす、というものである。今までは独立していた医学、獣医学、工学、農学などの学問体系は、異分野ではあるが関連する学問分野と連携をとり、地球とその中で暮らしている人類の存続に貢献しようとしている。

One Health思想を医療に適応すると、One Medicineということになる。人の医療と動物の医療を別々に扱うのではなく、両者を一括りにすることによって、今まで解決できなかった人や動物の病気が克服されるようになるというものである。これらの考え方は、人と動物の共通する難治性疾患であるがんに限定すると、Comparative Oncology、すなわち比較腫瘍学となる。

比較腫瘍学の比較対象は、主に人と伴侶犬である。人の最良の友である犬は、人と同じ環境で生活し、同じようながんに罹患する。がんに対して、医学および獣医学両面から新しい治療法や予防法を開発し、人もしくは動物という垣根を取り払ってがんそのものを克服しようとするものである。

最近、Zoobiquity(汎動物学)という概念が提唱されている。医学、獣医学、進化生物学を統合することによって、医学の進歩は加速するというものである。人は進化の過程で、目には見えなくても、様々な動物の特徴や性質を潜在的に受け継いでいる。今、克服できていない人の難病であっても、動物の病気を見直したり、進化の過程を読み解くことにより、解決の糸口が見えてくるというものである。

Zoobiquityは、進化生物学を取り入れた点で、従来からいわれている比較医学よりも間口は広い。ここで強調したいのは、One Health, Comparative Oncology, Zoobiquityにしても、今までは医学と獣医学の人たちの間の温度差が大きかったことである。獣医学は医学に熱心にアプローチしても、医学は人を対象とする唯一無二のMedical Scienceであり、医学そのものを発展させることが人の健康と福祉につながるという考え方をする医学者が多かった。

しかし、ここに来て医学から獣医学にアプローチしてくる事例が増えてきている。それは、獣医学における伴侶動物医療の進歩によるのみならず、伴侶動物の今後の方向性を真に示唆しているものと考える。

19.10.07 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2019年10月

「学校飼育動物と動物看護教育」

命の大切さを子供の頃から醸成させるため、「命の授業」が小中学校などで実施されている。また、同時に「学校飼育動物」と触れ合うことにより、動物の温もりと限りある命のはかなさを実感させる活動が行われている。これらの活動は好意的に受け入れられてきたが、現状では動物の日常の世話などは教員が主に負担せざるを得ない状況になっていると聞いている。特に、動物の苦手な教員は、動物の健康管理や病気対策に困惑するであろう。

動物が病気になった時は、地域の獣医師会が獣医師を派遣して対応することもあるが、十分ではない。これらの根本的解決には、「学校飼育動物」の適正な飼い方を生徒たちに指導し、健康管理に責任をもって担える教員が不可欠である。動物看護教育を実施している大学に、併せて教職課程を設ける必要性を強く感じる。

19.09.07 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2019年9月

「動物看護師は獣医師のパートナー」

愛玩動物看護師の国家資格化に伴い、様々な期待が動物看護師に寄せられている。正に、動物医療は獣医師と動物看護師の連携によるチーム医療になった。

病気の動物とその飼い主を中心に据え、獣医師は正確な診断と治療を行い病気を治す、動物看護師は病気や治療による動物の体調不良を改善する、これら両者が一体となって初めて良い結果が生まれる。そして、新知見を含んだ治療成績は症例報告として公表される。

症例報告の筆頭著者は獣医師であるが、共著者に動物看護師の名前が見られないのが現状である。
動物看護師が共著者として認められた時、初めて動物看護師は獣医師の真のパートナーとなる。

19.08.05 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2019年8月

「動物の生活の質(QOL)を主眼とした獣医学論文批評」

今年度の卒論研究テーマの一つとして、動物がん看護の実践と方向性を探るため、獣医学関連雑誌からがんの症例報告をピックアップし、卒論生と精読している。動物がん看護の目的は、がん自体による身体への悪影響や、がん治療による有害事象に対して、どのようにがんの動物の生活の質を落とさない対処ができるかが主題となっている。

かなりの症例報告を読み進めるうちに気がついたことは、各症例のQOLについての記述が甚だ貧弱であるということである。

論文の著者は獣医師であることから、その注目点は実行した治療法がどれだけ効果を示したかに力点が置かれている。もちろん有効性のみならず、有害事象にも関心は向けられているが、QOLの記述は明らかに欠落しているものが多い。その理由として、獣医師は治療効果に最大関心事があることは既に述べたが、それ以外の要因として認識しなければならない点として、QOLを判断するノウハウが圧倒的に少ないことではないだろうか。

QOLの判定基準の確立が待たれるところであるが、そのためには動物行動学の臨床応用に期待をしたい。
また、この不十分な点を補うことこそ、実はメディカルケアにおける動物看護師の主たる職務なのである。

19.07.08 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2019年7月

「実現、愛玩動物看護師の国家資格化とスリーエンジェルスの大活躍」

令和元年6月21日、国会で議員立法の愛玩動物看護師法が一人の国会議員の反対もなく承認・成立した。これにより、念願の動物看護師の国家資格化が実現した。

当初、この時期でのこのような歴史的快挙を誰が予想しただろうか。動物看護師の国家資格化には、まだまだ時間がかかるだろうとの大方の見方があった。1年前は、国家資格化の機運はどちらかと言えば沈滞気味であった。そのような情勢の中、これらの機運を打破するために昨年5月、日本動物看護職協会は動物看護師国家資格化推進委員会を発足させた。

この委員会メンバーは、動物看護教育を長年主導してきた委員長の山﨑薫(ヤマザキ学園理事長)と副委員長の下薗恵子(シモゾノ学園理事長)のたった2人であった。これら2人に横田淳子(日本動物看護職協会会長)を加えた女性トリオが大活躍をすることになる。国会期間中、精力的に各政党の国会議員への働きかけを行い、委員会発足後、わずか1年で目標を達成したのである。

日本獣医師会を始め、動物看護関連諸団体の長年の努力が実を結んだとも言えるが、この女性トリオの存在なくしては、この時期での国家資格化の実現はなかったであろう。これら3人の女性は、チャーリーズエンジェルスをもじって“スリーエンジェルス”と呼ばれている。

19.06.05 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2019年6月

「愛玩動物看護師の国家資格化」

今国会で愛玩動物看護師法(仮称)が提出されることになっている。これが成立すれば、動物看護師は念願の国家資格となる。ただし、対象動物は犬猫などの愛玩動物に限定されるようだ。

人と動物の関係をより良いものとするためには、動物の命を守る動物医療の質の向上は不可欠である。国家資格化により、命の大切さを理解する動物好きの若者たちが動物看護師を目指し、さらに幅広い活躍ができるようになればと想う。そして、動物看護師という職業が社会的に幅広く認められるようになることを願っている。

19.05.07 カテゴリー:動物医療現場のよもやま話

動物医療現場のよもやま話 2019年5月

「動物がん医療におけるセカンドオピニオン外来」

時々友人や友人の知り合いの飼っている動物のがん治療相談を受けることがあります。相談内容は、受診している動物病院の治療方針に対する疑問や、信頼のおける小動物外科医の紹介などです。

がん治療の考え方は、ヒトも伴侶動物も基本的には変わらないと思います。異なるのは、伴侶動物は当事者でありながら、治療方針の決定をするのは飼い主であるという点です。すなわち、動物医療においてもヒト医療と同様に、飼い主と患者という立場は異なるもののヒトが最終判断を下すことになります。

ヒトと同様、伴侶動物のがんは高齢化に伴い多くの発生がみられています。その割に飼い主の伴侶動物におけるがんの知識は十分とは言えません。そのため、担当する獣医師が丁寧なインフォームドコンセントをすることが不可欠ですが、動物がん医療は日進月歩であり、すべてのがんに対して標準治療が確立されているわけではありません。当然のこととして、獣医師個々によって推奨する治療方針が異なることも考えられます。そういう状況だからこそ、セカンドオピニオン外来の必要性を強く感じています。

病気の動物個々の年齢、病状や飼育環境、飼い主の年齢、家族構成や経済力、動物に対する愛着度や生命観などを総合して治療方針を立てることが大切だと思います。そのためには、飼い主にファーストオピニオンにおける疑問点の丁寧な説明や、複数ある治療法の選択肢のメリットとデメリットを個々の動物に照らし合わせてじっくりと考えてもらい、悔いのない結論を出してもらうようにしてもらいたいものです。

動物医療においても、セカンドオピニオン制度の広範な普及が待たれます。